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マウンド上には野田浩幸、そして打席には水橋隆雄。場面は一死一、二塁となり、遂に両雄は対決の時を迎える。
春のオープン戦、ここ福岡のドームで思いがけず対峙することとなった二人。それから半年の時を経て、今同じ場所で再び火花を散らす。
浩幸を睨みつけながら、水橋は悠然と打席の土を踏みならす。そして打席の一番後ろに立ち、深く腰を沈めた。スパイクが深く土を噛む。
見つめ合う浩幸と水橋。二人の力も、関係も、半年前と今では全く違うものになっている。
そしてもう一人、半年前の対決を肌で知る人物。菅原はただの傍観者ではなく、まぎれもない対決の参加者だった。
水橋の構えを見た瞬間、菅原は自らが抱いていた違和感が、疑念が、ある確信へと変わるのを感じていた。
「残念だったな、水橋。おまえに野田の球は打てねえよ」
目の前の水橋に、菅原はささやきかける。水橋は浩幸から視線を外さなかった。言い返すこともなく、表情も変えない。
マウンドと打席で、闘いの火蓋が切られるのを待つ二人、そして大歓声を送りながら見守る観客、全てが同じものを見ようとしている中で、ただ一人だけが違っていた。
そして菅原は立ち上がった。
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