全てを超える者

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言い終えてから、浩幸は我に返った。二人の間に少しの沈黙が流れる。それは浩幸にとって、ひどく長いものに感じられた。 「いや、違うな。俺はおまえが水橋に勝てる奴だと信じている」 菅原が沈黙を破った。怒鳴りつけられても表情を変えず、真っ直ぐな目を向けて信じていると繰り返す。だが、浩幸はそれを素直に受け入れることは出来なかった。 「言ってることとやってることが違うじゃないですか。俺は菅原さんを信じられませんよ」 「それでも信じろ。じゃあ、次の打者で見せてやるよ。おまえが持ってる可能性ってやつをな」 口調は丁寧さを取り戻した浩幸だったが、それでもまだ反抗的な態度は消えない。だが、可能性という言葉に目を泳がせて強い関心を示したのを、菅原は見逃しはしなかった。 「水橋とはまだ勝負する時じゃない。それもわかるはずだ。とにかく俺に任せてみろよ」 渋々頷く浩幸を見て、菅原はマウンドを離れた。小走りに本塁へと向かいながら、その顔にはこらえきれない笑いが浮かんでいた。 「単純だ、とも言ってたっけな。かわいらしい奴だ、あいつは」 中原の言葉を思い返して小さくつぶやき、自分の守備位置に腰を下ろした。
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