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その菅原の声は、当然のことながら遠く離れたマウンドにまで届きはしない。だが、目の前に立つ松島の耳には十分に届いていた。
松島は二匹目の蛇という言葉に強く反応し、動揺の色を顔に浮かべる。しかし、既に投球動作に入った浩幸を見てはどうすることも出来なかった。もうタイムを取ることは出来ない。
そして浩幸の手から放たれた球が、勢いよく真っ直ぐにミットへと向かう。その球筋はストレートのもの。だが、それは打席に近づくとともに揺れ始め、左打席に立つ松島の外角低めに落ちた。
なんのことはない。初球と同じく、二球目も投げたのはコブラ。松島は菅原の言葉に心乱され、手を出すことが出来なかった。
松島が鋭い目を菅原に向ける。だが何も文句は言わず、舌打ちをしただけでまた前に向き直った。
菅原が発したのはただの独り言であって、松島に球種予告をしたわけではない。文句を言う筋合いなどないのだ。
そして菅原は、またしても浩幸に語りかけるような声を出しながらサインを出す。
「よし、今度こそいくか。やっぱり新球は決め球に使わなきゃな」
マウンド上の浩幸は、出されたサインを覗き込み、わずかに顔を曇らせた。そして首を横に振る。
「おいおい、ビビってんじゃねえよ。それとも松島が相手じゃもったいないか?」
声を出し続けながら菅原がまたサインを出す。浩幸がまた首を振る。そして松島はたまらず打席を外した。
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