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プロ野球団には、それぞれに先乗りスコアラーと呼ばれる裏方職が存在している。
その役割は、次以降に対戦する相手チームの試合を、バックネット裏からビデオやスピードガン等を用いてデータを収集し、配球の傾向、打球の傾向、作戦の傾向、選手の癖等を分析するものである。
野田浩幸という投手の全貌も、既に先乗りスコアラーによって福岡ナインに伝えられていた。
2カード前の大阪オクトパス戦、そこで浩幸の先発した試合が徹底的に分析され、レポートとして提供されたのである。
高速ナックルと思われる変化球の存在、投球のほぼ全てがその変化球で占められる投球スタイル、異様なまでに高い三振奪取率。
詳細に綴られたそのレポートには、ただ1球だけ投げられたチェンジアップを除き、他には直球も変化球も記載はなかった。
そして、松島。一度打席を外し、雑念を振り払うかのように強く素振りをして再び打席へと戻る。
戸惑いの残る松島の顔、そして打席での姿、それを見た菅原は口の端を吊り上げて、意地の悪い笑顔を浮かべた。今度は何も言わずサインを出す。
3球目、またしてもコブラ。松島のスイングに初球の時のような鋭さはなく、腰の入らない手打ちであえなく三振に倒れた。
「魔球、ゴースト……ってところか。存在しない球なんか打てっこねえんだぞ、松島」
肩を落としてすごすごとダッグアウトへ戻っていく松島の背中に向け、菅原は小さく吐き捨てた。
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