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『神器は見つかりましたか?』
携帯端末から声が漏れる。声から判断すると女。成人しきっていない思春期の可愛らしさが残る声色だ。
「……あった」
その女性と端末を通して、会話するのは血に塗れた男。こちらもまだ成人しきってない少年だった。少年の黒い髪は血が染み込み、どす黒く変色していた。
全身は血の雨でも受けたように赤く染め上げている。顔にも自分の血か、或いは他者の返り血かは解らないが大量に付着し、端末を持つ反対の手に握られていた物、話に出た神器と呼ばれる物を、後生大事に布で包んでいく。
「リディ。これで二人は助かるんだよな?」
『次元の覇邪。あの方の力と神器の力があれば必ず上手くいくわ。それを早く転送して』
「その前に約束しろよ! ニ人の封印を解除するって!!」
今まで冷静だった少年が怒鳴る。端末を持つ手に力が入ったのか、鈍い音をたてて僅かに端末の形状が変化した。
『契約は絶対よ? 安心して……メシア』
回線はそこで切れた。入れ替わるように空間が裂け、出現した虚数空間から生温い風が少年の頬を撫でる。
「……頼むぞ」
少年の手から解放され、神器は闇の中へ消えていった。
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