序章 旅のはじまり

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  「しげぼー起き!起きや!」 伯母は俺の体を強く揺さぶった。 「病院から電話があった!私も行くから自転車の後ろにのせて!」 それ以外に言葉は必要なかった。 俺は後ろに伯母を乗せて自転車を漕いだ。 真夜中の道を。 父の胃癌が見つかったのは約一年前。すぐに手術し胃を全部摘出したが、後三ヶ月か半年の命と言われた。 一度退院し職場にも復帰したが、やがて再入院。 いつかこの日がくる事はわかっていたが、あまりに突然だった。 10分ぐらいの道程を何も喋らずただ漕いだ。 父は体に繋がったチューブを外そうとしていた。 俺に気付き、俺の顔を見て切ない顔をした。 俺はただただ父の手を握りしめた。 やがて他の親戚も駆け付け、父は眠りに入った。 途中何度か心臓が止まったが、看護婦の従姉妹が父の胸を強く叩き、息を吹き返した。 そして、もう何度叩いても戻らくなって 父の頭が力なく横に倒れた。 父の目から一筋の涙がこぼれた。 御臨終です。 医師が時間を読みあげた。 病室に泣き声が、こだました。 父の涙を見て伯父の一人が泣きながら言った。 「お前らの事が心配で泣いてるんや!」 腹が立った。 無性に腹が立った。 怒りが込み上げ、余計に涙が止まらなくなった。    何でわかるねん! オッサンに何でわかるねん! 何がわかるねん! お前らに何がわかるねん! 息子の俺がわからんのに お前らにわかってたまるかぁ! 怒りは涙を増幅させた。 おとんの涙は あの最期の涙は あの涙の意味は 何やったんやろ? 何が言いたかったんやろ? そういえばおとんの人生って… 十四の冬 父の想いを探す旅が 今はじまった。  
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