視線

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視線

県内某所にある当時できたばかりのカラオケ店。端から見れば別に変わった様子もない。しかし、奥の部屋の壁の向こうから変な空気が漂っている。誰も居ないのに視線を感じる。勘違いでは無さそうだが、関わるとろくなことがないので無視しておいた。 そのカラオケ店でバイトしている友人から相談されたのはそんな時だった。 「○○、あのお店の場所の変な噂とかって知ってる?」 「いや。別に何も知らないけど。確かに入れ替わりは激しいよな。」 「そっか。それじゃあ気のせいなのかな…」 「…変なことが起こるんだろ?」 本人のためを思うと言って良かったのか迷ったが、落ち着かない様子を見て喋ることにした。 友人は目を丸くしながら言った。 「どうして分かるの?まだ話してもないのに。」 「空気がどこか重いし。」 視線のことはひとまず黙っておいた。友人が続ける。 「夜さあ、一人でクローズの準備してる訳。そしたら誰も居ない筈のトイレの洗面台から勝手に水が出てたり…消した筈のテレビがついていたり…閉めたドアが開いていたり…」 流石にそこまでとは思ってもみなかった。御祓いなどが出来る訳でもなし、とりあえずアドバイスだけしておいた。 「一人の時は視線を感じても後ろを見るな。」 それからしばらくして友人から電話がかかってきた。 「噂やっぱりあったわ。うちの店の場所。」 「そっか。んで、どんな話だった?」 友人は話したくて仕方がないようだ。コイツの頭は何処かおかしい。とにかく話を聞いてみることにした。 「かなり前らしいんだけど、ここで店舗構えてた人が自殺したらしくてさ。どうもその後から店が頻繁に変わってたみたいよ。」 「そう言えば、あれから変わったことは?」 「視線を無視し始めてから気にならなくなった。後、一人でクローズまで残らないようにしてる。」 「…なら大丈夫か。」 根本的な問題は全く解決していない。ただ、要は受け取る側の気の持ちようなんだと思う。 霊がいるとしても相手は元人間。一人で寂しいこともあるだろう。そのために悪戯することだってあるのかもしれない。相手をしなければ霊も飽きるだろうと思い無視しろとアドバイスした。効果はあったようだ。 今でもその店は同じ場所で変わらず繁盛している。自分も普通に利用している。別段変な噂もたってない所をみると大丈夫だろう。 ここに取り憑く自縛霊は今でも自分の下手な歌を聞きほくそ笑んでいるのだろうか。
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