兵どもが夢の跡

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兵どもが夢の跡

日本昔ばなしを見ることにはまっている。各地の民話や伝承はどれを取っても面白い。教訓めいたものから真に迫る恐怖まで。個人的に一番好きなのは、小泉八雲が伝承を元に書き残した『耳無し芳一』。源平の合戦の凄惨さ、物悲しさ、そして亡霊への恐怖を端的に表した素晴らしい作品だと思う。 さて、市原悦子の語り口で『耳無し芳一』の中の安徳天皇の行りを聞いていて、昔あったことを思い出した。ちなみに安徳天皇とは平清盛の孫にあたり、幼くして壇ノ浦で命を絶った天皇である。 本題へと移ろうと思う。富山県には平家に関する伝説が数多く残されているというのは以前に話をした。今回は県境での話をしようと思う。   日付が変わるくらいだった。県外から来た大学の友人を連れ、車で金沢観光をしてきた所だった。ハイテンションな友人に一日中付き合わされた私は疲労で滅入っていた。金沢は好きなんだが人に振り回されるのは苦手だ。そんな帰り道。富山、石川の県境の「倶利伽羅峠」に差し掛かった。日本史に詳しい方は聞いたことがあるのではないだろうか。   「…なんか妙な感じがするな…」 口には出さなかったが嫌な気配がした。とあるカーブ。旧道を通っていた時だった。疲れもある。気のせいだと思い聞かせ、満足気な友人の為にも口には出さなかった。 峠を過ぎた。平野部に出るとコンビニの眩しい明かりが見える。 「ちょっと休もうぜ。」 友人に話すと二つ返事でOKが出た。喉が渇いていたらしい。   買い物を済まして、友人宅のある学生街へと向かう途中、友人が変なことを言い出した。 「なあ○○、県境辺りって古戦場か何かなのか?」 顔面蒼白になった。実はこの友人、大層な歴史音痴である。 「…なんで知ってるんだよ。」 相手が悪い訳ではないのだが、不機嫌そうに答えてしまった。 「…だってさ…なんかカーブのところ…そうだ、お前が疲れた顔をしていた辺りでさあ…何か武士っぽいの居たんだよ。怖くて緊張したのか喉が渇いちゃってさ。アハハ…」 「…気のせいだろ。」 とそのときは返事した。ちなみに後日、峠の話を再び聞かれて説明するハメとなる。    件の峠は朝日将軍と呼ばれた源義仲が平家を打ち破った「倶利伽羅峠の戦い」があった場所だ。伝説では「火牛の計」を用いた奇襲攻撃に平家の兵達は為す術もなかったという。今でも「膿川」などの禍々しい地名が残っている峠。そんなところである。
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