原に残る念

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原に残る念

実は住所と本籍が違う。本籍は富山の中でも更に田舎。昔から農業を山間部で細々行っていた地域。その地域の豪農がうちの祖先。 殆どの耕作地が棚田なのに対して一カ所だけ変わった場所がある。 名前は「原(はら)」 何故か広く開けていて、陽当たりもよく、現在は田畑として利用されている。ここには色々な逸話が残っている。 耕すと大量の骨壺が出る。髑髏が顔を出す。骨壺は自分も実際に見たこともある。またかと言って捨てる祖父。 1000年程続いている本家には古文書が大量に残っていた。全て蔵の火事で焼けたらしいが。読んだことのある人曰わく、 「百家寺(寺院集落)があったらしい。」 地域の伝承では上杉謙信の焼き討ちにより、僧侶は皆、死に絶えたと言う逸話が残っている。謙信二度目の上洛の時だろうか。確かに浄土真宗は当時の大名たちから弾圧されていた。宗派が今地域で信仰されているものと同じならば焼き討ちの話も信憑性がある。 また、本来は孟宗竹の林が広がる地域だが、原だけ真竹が生えている。どうも今の住民とは別の人が住んでいたのだけは間違いない。 その真竹の林中に古井戸がある。竹の葉が積もって見えにくいが。祖父曰わく、 「竹藪には近付くな。」 古井戸に落ちたら危ないからだと思っていたがどうも違うらしい。 谷間に位置し、日照量が少ない地域。昔から地区では日を浴びないことが原因で脚気(かっけ)にかかる人が絶えなかったようだ。その点、原は陽当たりも良く人が住むには絶好の環境。しかし村には昔からこのように伝わっている。 「あそこには住むな。」 祖父は非科学的なこの伝承を信用せず、原に新居を建てようと考えていたらしい。そんな時だった。 「夜なあ、田んぼの水を見に行ったんだよ。そしたらなあ、誰もいない筈の竹林の中になあ、ポツリポツリと赤い火が浮いてるんだ。ちょうど井戸がある辺りになあ。」 周りには民家一つない所、祖父は理解し諦めたそうだ。 原は夏でも常に涼しい。犬と散歩へ行くと犬が逃げる。何もない所で吠える。唸る。 400年以上経った今でも、志半ばで息絶えた僧侶の無念が原には渦巻いているのだろうか。
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