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どれくらい時間が経っただろうか。時間が経つことすら長く感じる。手足は縛られ、淳は天井を眺めることしか出来ない。
右手には点滴がつけられている。左手にも数ヵ所の針の後が残されている。
「くそっ……」
身体を動かしてみるが、固定されたヒモは全くほどけない。
(……こんなはずじゃなかったのに。死にたい、死にたい……!)
涙が溢れ出す。それをぬぐうことすら、今の彼には出来ない。
再び扉が開けられる。白衣に身を包んだ一人の看護師の姿。
男性。金髪という看護師らしくない印象だった。
「初めまして。君の担当をさせて頂くことになりました雨宮と言います。宜しく」
金髪の彼は微笑みながら話しかける。
「……」
顔を合わせないよう、淳はそっぽを向く。
「気分はどう? 今辛いところとかないかな?」
「うるせぇな……手足を縛られてとっても辛いです、とでも言えってか?」
看護師は軽く頷く。
「辛いよね……。僕も昔そうやってされたことがあるから、その気持ち良く分かるよ」
「だろ? だったらさっさとほどいてくれよ」
そう言いながら、淳は縛られた両手を動かす。
「……さっき医者からも聞いたと思うけど、それは今は無理なんだ。君の母親に家庭裁判所に行ってもらって、君を拘束する申請書をもらったからね。暴れる君を押さえるのは大変だったよ」
「俺、そんなに暴れたのか?」
「そうだね……。僕も二、三回殴れたかな」
そう言うと看護師は腕を見せる。生々しい青あざが、はっきりと残されていた。
「……」
覚えていなかったとはいえ、自分が無意識に他人を殴っていた事実に言葉を失う。
「まぁ、とにかくこれからしばらくはお世話になるから、宜しくね」
「……はい」
静かにそう言うと、目を閉じる。手足を縛られた理由を何となくだが理解し始めた。
「また様子見にくるから」
そう言うと、看護師は部屋を出る。
「俺は……何やってんだ……?」
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