第一話~未遂~

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 どれくらい時間が経っただろうか。時間が経つことすら長く感じる。手足は縛られ、淳は天井を眺めることしか出来ない。  右手には点滴がつけられている。左手にも数ヵ所の針の後が残されている。 「くそっ……」  身体を動かしてみるが、固定されたヒモは全くほどけない。 (……こんなはずじゃなかったのに。死にたい、死にたい……!)  涙が溢れ出す。それをぬぐうことすら、今の彼には出来ない。  再び扉が開けられる。白衣に身を包んだ一人の看護師の姿。  男性。金髪という看護師らしくない印象だった。 「初めまして。君の担当をさせて頂くことになりました雨宮と言います。宜しく」  金髪の彼は微笑みながら話しかける。 「……」  顔を合わせないよう、淳はそっぽを向く。 「気分はどう? 今辛いところとかないかな?」 「うるせぇな……手足を縛られてとっても辛いです、とでも言えってか?」  看護師は軽く頷く。 「辛いよね……。僕も昔そうやってされたことがあるから、その気持ち良く分かるよ」 「だろ? だったらさっさとほどいてくれよ」  そう言いながら、淳は縛られた両手を動かす。 「……さっき医者からも聞いたと思うけど、それは今は無理なんだ。君の母親に家庭裁判所に行ってもらって、君を拘束する申請書をもらったからね。暴れる君を押さえるのは大変だったよ」 「俺、そんなに暴れたのか?」 「そうだね……。僕も二、三回殴れたかな」  そう言うと看護師は腕を見せる。生々しい青あざが、はっきりと残されていた。 「……」  覚えていなかったとはいえ、自分が無意識に他人を殴っていた事実に言葉を失う。 「まぁ、とにかくこれからしばらくはお世話になるから、宜しくね」 「……はい」  静かにそう言うと、目を閉じる。手足を縛られた理由を何となくだが理解し始めた。 「また様子見にくるから」  そう言うと、看護師は部屋を出る。 「俺は……何やってんだ……?」
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