『あなただけ 君しか』

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「……い」    涙を堪えているせいで上手く声が出せない。   「泣いてるの? 」    俯いたままの私に彼が近付いてくるのが気配で分かった。   「ひどいよ」    言いたい事はたくさんあったのに、私の口から出たのはその一言だった。  そしてとうとう耐えきれずに零れる涙。   「ちょっ……俺の話聞けって」    慌てる彼。   「言い訳なんて聞きたくない」   「違うって」   「じゃあ別れ話? 彼女の方が美人だし女らしいもんね。美男美女でお似合いなんじゃない。で、そうなると私はもう用済みって訳か」    自分で言ってて情けなくなるが、一度言葉にしてしまうと感情だけが先走り止まらない。   「別に私は別れてあげても……」 「うるさい」    私の言葉を遮った突然の彼の怒声に、体が一瞬ビクリとする。  しかし私が怒られる筋合いはないはずだ。    行き場のない怒りと悲しみが、私にある行動をとらせた。
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