『あなただけ 君しか』

6/16
前へ
/176ページ
次へ
「ありがと」    何となく月に向かって言ってみる。  心なしか月が煌めいたのは気のせいだろうか。    そして私は再びトボトボと歩き出す。    暫くすると一本道だった裏道が左右に分かれた。  左の道を行けば駅へと行く事ができる。    しかし駅に行っても手ぶらの私には何もする事がない。  私は少し迷った後、右の道を進む事にした。    ――小学生の頃を思い出しちゃうな。    小学生の頃は通った事のない道なんかを見つけると、未知の世界を発見したみたいでワクワクしたものだ。  しかし今はそんな気分にはなれない。   「とりあえず進みますかね。相棒君」    今私の中で空に浮かぶ半月が相棒と決定した。  例え相手が月でも一人ぼっちよりはいい。    そうして未知なる道を少し進むと、急に視界が暗くなった。  驚いて振り返ると、高層マンションに月が隠れてしまっていた。    私は慌てて月が見える場所まで小走りで急いだ。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

879人が本棚に入れています
本棚に追加