第一章 保護者教師

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会田の父親は血相を変えて僕と神谷の方へ向かって突進してきた。 店員達が会田の父親を止めようとしたが、会田の父親は止まらなかった。 「このガキが!俺をハメやがって……」 こっちに向かって突進してくる会田の父親に僕は恐怖を感じた。 だけど、僕の前に立っている神谷は余裕の表情を見せていた。 次の瞬間、神谷は信じられない行動に出た。 神谷は足元に積み上げてあった3箱のパチンコ玉を思いっきり蹴りあげた。 たちまち床一面にパチンコ玉が広がり、足を取られた会田の父親は足を滑らせ狭い通路の床に転倒した。 「おい、キクリン行くぞ。走れ!」 思わぬ神谷の行動に呆気に取られて呆然とその場に立ち尽くしていた僕に神谷は言った。 神谷の言葉で我に返った僕は神谷に続いて走り出した。 僕は床一面に広がるパチンコ玉に気を配りながら『ゼイラム』を後にした。 店を出る瞬間、一瞬だけ店員達に取り押さえられている会田の父親の姿が視界の片隅に映った。 僕は少し気になったが、その場の勢いに押され、そのまま走り去った。 駅前の繁華街を抜け、学校周辺の住宅街まで走り続けて神谷はようやく足を止めた。 「キクリン、大丈夫か?」 「……だっ大丈夫じゃないですよ。いきなりあんなことをするなんて……」 すっかり息を切らしている僕に対して、神谷は息を切らすどころか、平然とタバコに火を付け、煙を肺に流し込んでいた。 「……どうしてあんなことをしたんですか?あの店に会田の父親がいるって事を神谷先生は初めから知っていたんですか?」 「今日はただ挨拶しただけだよ。まぁ、宣戦布告みたいなもんかな」 神谷の言っている意味が僕には理解できなかった。 「神谷先生、教えて下さい。会田恵が体育を休む理由があの父親にあるってどういう事なんですか?」 僕の質問に対して神谷は全てを見透かしたような視線を僕に向けて言った。 「そう焦んなくてもそのうち解るさ。キクリンは会田の担任なんた。嫌でもそのうちその問題にブチ当たるさ。さぁ、とりあえず学校に戻ろうぜ」 謎めいた神谷の言葉はすぐに現実のものとなって津波のように僕の前に押し寄せることになる……。 【続く】
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