第一章 保護者教師

10/29
前へ
/173ページ
次へ
あのパチンコ屋での騒動の翌日、会田恵は学校を無断欠席した。 僕は保健室で細川先生にまとわり付いている神谷を捕まえて相談したが、神谷はまるで聞く耳を持たなかった。 呆れた僕が保健室を出て行こうとした時、神谷は独り言のように呟いた。 「会田恵はキクリンの生徒だ。だから会田の問題はキクリンが解決してやるんだ。俺には関係ない……」 無責任な神谷の言葉に僕は腹を立て保健室から出て行った。 神谷は一体何を考えているんだ……? 何であんなに落ち着いていられるんだ? しかし、神谷の言葉にはどこか全てを見越して話しているようなニュアンスがあった。 「どうしてあんな言い方するの?」 保健室で細川先生が神谷に問いただした。 「思ったことをそのまま口に出しただけだよ。生徒がどうなろうと俺には関係ない。俺は子供は嫌いなんだ」 「……嘘ばっかり。本当にそうならあなたはここにはいないわ」 細川先生は神谷の眼を見詰めて言った。 「まぁ、大人の皮を被った餓鬼どもはもっと嫌いだからね。俺の相手はそんな餓鬼どもさ。本当の大人になりきれずに子供に害をもたらす幼い餓鬼どもさ。」 神谷の言葉を聞いて細川先生は瞳を輝かせ、ニッコリと微笑んだ。 「でも、俺が本当に好きなのは自立した大人の女性だね。そう、細川先生あなたのような……」 神谷が細川先生にキスしようとした瞬間、細川先生は突然立ち上がり、神谷は椅子から転げ落ちた。 少し時間はさかのぼり、一日前の深夜、会田恵の父 剛はようやく帰宅した。 防犯カメラの映像によって剛の潔白は証明されたが、パチンコ屋の店員を殴った事で警察に通報され、こんな時間まで取り調べを受けていた。 おまけにパチンコ玉で足を滑らせ床に転倒した時に背中をおもいっきり打ちまだ痛みが残っていた。 店員の早とちりとはいえ、全ての元凶はあのヒョロっとした男だった。 アイツの口車に乗って酷い目にあった。 剛は今度あの男を見つけたら殺してやりたいと思っていた。 家に帰ってからも剛の怒りは収まらなかった。 その怒りのはけ口は全て恵に向けられることになる……。 【続く】
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加