第一章 保護者教師

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微かに花の香を含んだ春の風が気持ちいい。 桜の花がとても綺麗に咲いている。 チュンチュンと囀る雀の鳴き声さえ、今の僕にはとても心地良いハーモニーに聞こえる。 僕の名前は菊地祐輔。 今日から僕の新たな人生がスタートする。 今日、僕は子供の頃から念願だった教師になった。 赴任先は私立アルル学院。 小等部、中等部、高等部を兼ね備えたこの学校を舞台に僕の教師生活は始まる。 だけど次の瞬間、そんな僕の気持ちを一瞬で掻き消すような衝撃的なの光景が目の前に広がっていた。 僕が歩いている数メール前の道で、人が車に撥ねられたのだ。 その瞬間、僕はその場から動く事が出来なかった。 撥ねられたのは三十代半ばのジャージ姿の男で、撥ねた車は停まる事もなく、猛スピードでその場から走り去った。 それは明らかに轢き逃げの瞬間だった。 僕は慌てて倒れているジャージ姿の男に駆け寄った。 「ちょっと、大丈夫ですか?」 「ああ、ありがとう。大丈夫だ。たいした事じゃない」 取り乱している僕とは対象的に、ジャージ姿の男は冷静に言った。 「あの、救急車は……?」 「ああ、呼ばなくていいよ。たいしたケガじゃない。こんな事は日常茶飯事だ」 頭から血を流しているにも関わらず、男は平然と薄ら笑いを浮かべながら言った。 「俺の事は気にしなくていい。それより出勤途中じゃないのか?遅刻するぞ」 「……ええ、でも僕の職場はここなんで大丈夫です。それに今日が初出勤で、だいぶ早く来たんで……」 僕は後ろに広がるアルル学院の壁を指指して言った。 「何、君はこの学校の教師なのか?」 「はい!」 「……なんだ、そうか。じゃあ、ちょっと肩を貸してくれ。保険室で少し休みたい」 男の言葉を聞いて僕は驚いた。 「あなたもこの学校の先生なんですか?」 「ん~まぁ、似たようなもんかな。あそこで働いてればその内分かるさ。それより、早く保健室に行こう。今日は細川先生どんな服着てくるかな?」 「……」 これが、僕と神谷との出会いだった。 この神谷と出会った事で、僕の人生は大きく変わっていくことになる……。 【続く】
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