第一章 保護者教師

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「内海芳枝さんですね」 ジャージ姿の神谷は目くじらを立てて怒っている保護者の顔をのぞき込みながら言った。 「何なんですか?貴方は……」 馴れ馴れしく話し掛けてきた神谷に、内海はさらに厳しい口調で言った。 「あ、失礼しました。私、保護者からのクレーム担当アドバイザーの神谷と申します。出張中の校長よりクレームに対しては全権を一任されています。何なりとご相談下さい」 神谷は今まで僕が聞いた中で一番丁寧な言葉遣いで言った。 「……そう、じゃあ神谷さん。改めて言わせていただきますけど、今回の件をどう対処なさるつもりですか?」 頑なに強い口調を崩さない内海に対して神谷は至って冷静に笑顔のまま静かに口を開いた。 「まず、単刀直入に申し上げます。内海さんのお子さんだけ別室で勉強させるというのは実質的に不可能でしょう。我が校はどんな生徒にも特別な処置はいたしません。例え貴方が我が校に毎年多額の寄付をして下さり、PTA会長だとしてもそれは変わりません。そんなにホコリが気になるなら病院の無菌室でも買い取ってそこにお子さんを閉じ込めておいたらいかがですか?」 その表情とはあまりにも異なる神谷の言葉に、内海は眉間にシワを寄せ、怒りをあらわにしていた。 二人の周りにいた小等部の先生方はもちろん、僕でさえもあまりにも不躾な神谷の言葉にヒヤヒヤしていた。 「……何なんですかあなたは?校長から全てを一任されてるとおっしゃいましたが、これがそちらのお答えということですのね……。それは毎年の寄付金も必要ないという事でよろしいのかしら……」 「ええ、構いませんよ。いくら多額の寄付金にモノを言わせても貴方のお子さんだけを特別扱いする事はできません。それにお子さんはホコリアレルギーじゃないですね……」 「……なんですって?お医者様にはちゃんと……」 「貴方が見せたのは掛かり付け医師一人だけ。その診断が正確だったかどうか……貴方のお子さん、里奈ちゃんを10人の医師が診察した結果、里奈ちゃんの体にできた湿疹の原因は恐らくストレス。しかも、里奈ちゃんのストレスの原因は貴方にあるんじゃないですか?」 神谷の言葉にそれまで怒りに満ち溢れていた内海の表情に変化が生じた。 【続く】
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