第一章 保護者教師

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神谷の言葉を聞いて内海は明らかに動揺していた。 「……娘を診察したですって?何を勝手にやってるの。貴方、こんな事をしてただで済むと思ってるの……?」 内海は凄んではいたが、さっきまでとは明らかに違っていた。 そんな内海に対して、神谷は淡々と続けた。 「内海さん、最近あなたは生活が荒れているようですね。」 「……なんですって?」 「内海さん、あなたは出張続きのご主人が家に帰ってこない事を良いことに、最近若い男を連れ込んでますね。それが里奈ちゃんのストレスの原因になっているんです」 「……何をバカなことを」 動揺している内海を前に神谷はポケットから数枚の写真を取り出して、机の上に静かに置いた。 それを見た内海の表情がみるみるうちに青ざめていった。 その写真には内海と不倫相手の若い男がホストクラブではしゃいでいる姿や、腕を組んで一緒に歩いている様子が何枚にもわたって細かく写されていた。 「……」 あまりのショックに内海は声を出す事もできなかった。 「あなたの不倫相手はホストクラブで働く比留間賢二、23歳……。あなたは以前ホストクラブにも通われていたようですね。そこで比留間さんと出会われたようですね。」 内海は神谷とは目を合わせず、俯いたままジッと写真を見つめていた。 写真を握りしめる内海の手は汗でべっとり濡れていて、微かに震えていた。 「不倫だけではなくあなたは比留間に金も貢いでいますね。月々50万。それとは別に車やら腕時計やら色々とプレゼントも送っているようですね」 神谷がそこまで言った時、内海は黙って席を立ち、職員室を後にした。 「あの、ご用意はもうよろしいんですか?」 追い打ちをかけるような神谷の言葉に内海は振り返りもせずに、黙ったまま逃げるように立ち去っていった。 内海に気を取られている隙に、いつの間にか神谷は職員室から消えていた。 ポカンと神谷と内海のやり取りを見ていた小等部の先生方も、それぞれ自分の持ち場に戻って行った。 僕も慌てて神谷を追った。 さっきのやり取りで僕は神谷の仕事をなんとなく理解した。 保護者からのクレームを対処する教師……。 この時僕は神谷の事をそう思っていた。 【続く】
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