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「え、捨てるの? もったいないよ」
「…………」
瀬野が急に驚いたような顔をして、捨てようとしていた手をじっと見ていた。いや、こんなもん持ってても邪魔なだけだろ。
「いらないなら、頂戴。あたしこれ集めてるんだ」
このやたらリアルな気持ち悪い虫のどこがいいのか、瀬野は笑いながら手を出してきた。さすがの由貴も苦笑いを浮かべている。
どうせ捨てるものだったし、そのまま瀬野に渡した。
「いらねえし、やるよ」
「……ありがとう」
やった、と言いながらつり目がちな猫のような目を細めて、すげー嬉しそうに笑う。何がそんなに嬉しいのか、まったくもってわかんねえ。
瀬野は気持ち悪い虫の模型を大事そうに握りしめて、手を振りながら店内にいる北原の元に戻っていく。
「あの虫、女子大生ではやってんの?」
「知るかよ」
変な女。
それが、瀬野美月という女に対する俺の第一印象だった。
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