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八月下旬。
その日俺は一人で、家の近くの本屋で雑誌やら本やらを立ち読みしていた。
由貴や他の奴らは、ほとんど手を付けていなかった宿題に追われ、一緒にいれば確実に手伝わされると踏んだ俺は、携帯の電源を切り、わざと音信不通にしていた。
音楽や服などの雑誌になんとなく目を通す。別に買いはしない。
あ、この服欲しい。って、高すぎじゃね……これのどこにそんな金かかってんだよ。
やたら0が多い服に眉をひそめた。
誰が買うんだよ、こんな服。買った奴バカだろ。
雑誌を買いもしないくせに、ケチをつける俺も結構なバカだとは思うけど、暇な時間を潰すようにだらだらとその場に居座っていた。
「あの~……もしかして、藤嶋君?」
「…………誰?」
突然かけられた声に顔をしかめた。なんだこの女。なんで名前知ってんだよ。
そこには、黒髪ショートに猫顔の女が立っていた。黄色のティシャツにスキニージーンズ。
俺が不機嫌そうな声を出すと、その女は眉を下げて困ったように笑った。
「忘れちゃった? ほら、モックで会った、瀬野美月っていうんだけど…」
「…………」
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