本屋

9/13
前へ
/294ページ
次へ
 水曜日の放課後。  今日は、由貴が洗濯物を取り込む当番だとかで先に帰ってしまい、いつもの帰り道をひとりで歩いていた。  帰りにある商店街には、近所のおばさん達が晩飯の買い物やなにやらで、今時珍しい八百屋や魚屋に群がっていた。  近くのクレープ屋には桜ヶ丘の制服を着た女数人が、でけえ声で笑いながらいかにも甘ったるそうなクレープを立ち食いしていた。  このまま家に帰ってもとくにやることもないし、暇つぶしに行きつけの本屋に寄る。  本屋は嫌いじゃない。  涼しいし、静かだ。由貴はこの雰囲気に堪えられないらしいけど、俺にとっては悪くない場所だった。  雑誌は前に見たものとあんま変わってなくて、小説の置いている場所へ移動する。  棚に積まれてある新刊を一冊手に取る。 『私は決してバカじゃない』  いや、これ書いてる時点で結構なバカだろ。  手にとった新書は、今流行っている、というらしきもの。  なんでこんなもん売れんだよ。本でまでバカを否定したいほど、日本にはバカが溢れてるのかよ。  どうでもいいことを考えながら、本を元の位置に戻していると、ふと視界にどこかで見た横顔が入ってきた。  黒髪のショート、細身の体型……瀬野美月だ。
/294ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3618人が本棚に入れています
本棚に追加