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「なぁ、入谷?」
「なんだい?」
「時々思うことがある。俺は幸せになっちゃいけないんじゃないか、ってな」
「………」
「こんな生き方してきたか俺が……人並みの幸せを手にしていいのか。俺は……」
「それは私にはわからない。けどそんな事言ったら瑠璃華が可哀想だ。君の都合で瑠璃華を幸せにしないというのはエゴだよ」
その時の入谷の顔はどこか遠くを見つめるような、寂しそうな顔をしていたのをよく覚えている。
そしてしばらく間を置いてから、入谷は俺をマジマジと見つめた。
「なぁ?」
「なんだ、ジロジロと気持ち悪い」
「とりあえずパンツをちゃんと履いてもらってきて大丈夫かな?」
そこで俺は無言で立ち上がり、トイレの個室に向かった訳だ。
もういろんな葛藤があって俺は気が気じゃなかった。正直パンツとかどうでも良かったし。
なんだろうな、あの複雑の気持ち。例えるならこの間のCDTVでゆずの新曲がけいおんのEDに負けていたのを見た感じか。
パンツをあるべき場所に装着した俺はまた分娩室の前に戻り、入谷の横に座った。
「ところで、今日は君に大事な話があってきたんだ」
「なんだ、オーフェンのビデオを全巻譲ってくれんのか?」
「何の話をしてるのかよくわからないんだが……私にも幸せにしなければならない人が出来たんだ」
藪からグングニルだった。
相手は察しがついてた。というかそいつしか考えられなかった。そいつは俺らの隊のもう一人の女で、椛って名前でな。俺と同じ戦闘担当なんだが、まぁ活発で健康的ないい女だった。だから、まさかこんな厨二くさい男とくっつくとは夢にも、って感じ。
「相手は君の思っている人で正解。それでね、私の名字は昨日付で入谷じゃなくなった。椛の名字に合わせることにしてね」
「今日からは七河恭司だ。以後よろしく」
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