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「まぁ……立花が尻にしかれてるのは分かったよ」
非常に不快な違和感がある額を擦りながらそんなことを言うと、希理人は頭をかいて視線を横に流しながら、照れくさそうな表情を浮かべた。
「その……立花って呼び方なんすけど……これからは紛らわしくなっちゃうんで止めて貰って大丈夫っすか?」
「……は?」
すると、希理人はいきなり横に座っていた零の肩を掴んで自分の方へ引き寄せた。
「ちょ、き、希理人!! 何すんのよ!?」
顔を真っ赤にさせてじたばたする零を無視して、いつものチャラい口調から、呼吸を止めて一秒、希理人真剣な目をしたからそこから何も言えなくなって星屑ロンリネスだったよ。
「俺ら、籍を入れることにしました。だから、零は『立花零』になります」
深い目をしていたな。
強い覚悟と、そしてこれから先を見通した悲壮的な決意が感じられた。
恐らくこいつらは自分の立場も、未来もよく理解していたんだと思う。だからこそ、この決断を下した。本当は喜ばしいはずの報告をあんなマジな顔でされたら、そう考えざるを得ない。
「俺らは多分、ずっと居られねぇ……この仕事をしてる以上どちらかが死ぬリスクは拭い去れないっす。でも、表の世界での生き方は知らない。零はともかく……俺は汚れすぎました。普通の人生はもう送れません。だから俺らは、俺らが互いに好きだったって証を残すために籍をいれることにしたんです。もしどちらかがいなくなっても、気持ちだけは、証だけは残せるようにって」
肩を抱かれた零の体は小刻みに震えていたよ。今にも泣き出しそうな顔をしながら、希理人の体にしがみついていた。
俺はいつもの煙草を一本持ち出して、そいつに火を灯した。
「体に悪いっすよ?」
「止められねぇんだよ」
いたずらっぽく尋ねてくる希理人に俺は、無愛想に返した。
「死なせねぇよ」
今でも夢に見ることがある。
「二人とも」
今でもずっと後悔している。
「俺がてめぇらを死なせねぇよ」
──なんであんな無責任で残酷な薄っぺらい言葉を口にしてしまったのか、ってな。
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