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「あれ? 師匠?」
俺は炎都から歩いてくる師匠の姿に気づいた。酷く疲れている様子だ。
師匠も俺の声に気づいて顔を上げる。
「やぁ、シャン君、クロス君。祭りを楽しんでますかぁ? お祭り良いですよねぇ」
いつもの師匠に戻っている。
「師匠お仕事お疲れさまです」
クロスが赤い飴がついた棒を持ちながら頭を下げる。長い髪が飴につきそうだ。
師匠が炎都に行く時は仕事の時と決まっている。前々から知っていることだが、宮廷魔術師とかそう言うお偉いさんの知り合いが多いらしい。
「そう言えば、向こうでクロス君のお父さんと会いましたよ」
「え? 本当ですか?」
その嬉しそうな声と年頃らしい表情でいつものクロスが消えている。クロスの父親と母親は離れて暮らしている。母親がクロスを身ごもった時、生まれ故郷に戻って来たと昔聞いた。
「お父さんはいったい何処にいるんでしょうか?」
「すみません。呼び止めるべきだったんでしょうが、お父さんはどうやら仕事の方が忙しいらしくて、すぐに帰ってしまいました」
頬を掻きながら謝れてしまって逆にクロスが慌てた。
「いえ、良いんです」
そう良いながら寂しそうに飴をなめるクロスに俺は何と声をかけたら良いのか戸惑う。
「私も仕事が一段落つきましたし、パァーとやりましょう。パァーとね」
師匠が子供のように両腕を上げながら言う姿を見て俺とクロスは顔を思わず見合わせる。
そして、吹き出してしまった。笑いがこみ上げ、暗い雰囲気がどこかへ吹き飛ぶ。
「どうせならルー君も呼んで祭りを楽しみましょう」
「お、良いですね。師匠」
「僕も賛成」
クロスは水晶を取り出し、ルーを呼ぶとまた祭りに参加する。今日は仕事の疲れと試験勉強の疲労をふっとばすぞと俺は意気込む。
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