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街から少し外れたこの駅で降りる人も乗る人も、幸い少なくて助かった。
男同士で痴話喧嘩?別れ話?なんて、見られたくないもんな。
電車が走り去ったあと、俺はまた話し出した。
「優一が、女の子と歩く姿を見たんだ」
だからなんだという声が聞こえてきそうな顔をした。
それは悪気があるからじゃなく、一緒に歩くくらないなら別に浮気にならんだろうと本気で思ってるから。一緒に向かう場所のことなんて、きっと優一の頭にないのだ。
「浮気されたかもしれない、それもショックだったけど、どう見てもお似合いな二人を直視できなかったことの方がショックだった」
言葉を切って、優一を見たけど、続きを促すかのように頷かれただけだった。
「俺じゃあ、ああはならないだろうって、遅すぎるけど、思い知らされた」
俺が優一を縛ってちゃいけない、
解放してあげなきゃいけないんだ。
それからは、そのことしか考えられなくなっていった。
だけど、なかなか決心できない自分もいて、別れようと言っても、無駄に情が厚くて優しい優一には聴き入ってもらえないことも予想できた。
本当は別れたくなんかなかった。
俺は優一が好きだから。
優一が俺を好きだったのか、分からないけど…、でも、追いかけて来てくれた。それだけで、もう充分。
俺が優一を好きだから、別れるんだ。
俺は戻れない。もともと女の子は恋愛対象外なんだ。
でも、優一は戻れるでしょう?
ただ幸せになってほしい。
俺が願うのはそれだけ。
優一には、結婚して幸せな家庭を築くほうが似合ってる。俺と一生二人で過ごさなきゃならない将来なんて、想像すらできないだろ…?
だから、優一。
──別れよう
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