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最後の方は、多分泣きながらだったと思う。
この時ばかりは、男のくせに泣くなんて情けないな…とは思わなかった。というか思わないでほしい。
どれくらい経っただろう。
その時の俺には理解できなかったが、一生続くような気さえした沈黙が破られた。
「…好きだった」
俺は自分の耳を疑った。
「ちゃんと好きだったから、お前と付き合った」
優一は自分自身にも確認するように繰り返し言った。刺すような視線を俺に向け、強く。
どうやら俺の耳は間違ってなかったらしい。こんなに驚く理由は一つだ。
今まで一度も、その言葉を聞いたことがなかったから。
だけど、よく聞けば……過去形。
「そんなの…初めて聞いた」
嬉しさと悲しさと恥ずかしさが織り混ざって、複雑な気持ちで笑った。
優一の顔は、優しさで嘘をついてるようには見えなかったから、多分本当なんだろう。
「初めて言ったからな。…そう。そのつもりで付き合った」
でも…と続けた。
「好きな女(ひと)が出来た」
ズキンと胸が、心が傷んだ気がした。
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