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ゆらゆら揺れる紫煙を眺める。
お互いに言葉はなく、ただ、アイツがタバコを吸う微かな息遣いが聞こえるだけ。
シたあとは、いつもそう。
それに限らず、俺達の間で交わされる言葉は多くはないけど。
「──じゃ、行くわ」
タバコの火を、丁寧とは言えない動作で消し、それだけ言ってアイツは部屋を出た。
俺の返事も待たずに。
いつもそうだから、今更か。
今日は帰るの早いな…
なんて、早く帰る理由なんて知らないのに、思う。
お互いに、詮索はしないという、暗黙のルールが、いつの間にか出来ていた。
いや、俺の場合、できないだけ。
聞いても答えは返ってこないような気がするし、もし返ってきたとしても、自分が傷付くだけなのは、目に見えていたから。
相手の感じるところは知り尽くしているのに、血液型さえ知らない俺達。
セフレ?
いやいや…友達ですらないでしょ。
友達以下で、セックスなら…恋人以上?
だから、こんな歳になってもヤってるんじゃねぇのかな?
結婚は3年くらい前にしてるっぽいし、なのに未だに、こんな関係が続いてるってことは、多分そうなんだと思う。
あー、いや、分かんねぇけど。
結婚だって、したってはっきり言われたわけじゃないし。
左手の薬指に、指輪が嵌めてあったから、そこから推測しただけで。
俺は、こんなにもアンタのこと知りたいのに、アンタにしてみりゃ俺なんかせいぜい性欲処理の道具でしかない。
道具に、なにかを話す義理はないってか?
ははは…
つらいなあ…
今に始まったことじゃないけど。
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