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沈黙が、二人を包んだ。
遠くでは、どっかの犬が鳴いていた。
夕陽がさらさらと流れる川を照らしている。
「恭介」
沈黙を破ったのは、俺。
「なに?」
俺の声色が、少しだけおかしい事に気付いたのだろうか。
恭介は立ち止まって、空に向けていた顔を、いつの間にか俯かせていた。
俺も立ち止まって、けれど、恭介の顔を見ないようにして、空を仰ぎながら言った。
「…ごめんな」
普段の馬鹿な俺からは想像もつかない程、至極真面目に。
「…うん」
謝られる事を予想していたかのように、恭介は、ただ頷いただけだった。
横目で恭介を見たけど、逆光と、恭介のサラサラの前髪で、表情がよく分からなかった。
分からなかったけど、多分、傷付いた顔をしているんだろうな、と馬鹿な頭で考えた。
俺、馬鹿だから。
難しいことは、よく分からないんだ。
だけど、お前が俺を好きだってことは、紛れもなく事実で、それはとても簡単で単純なことで。
その気持ちを、受け止める勇気も器も、今の俺にはないってことも、ひどく簡単で単純なことで。
難しくは、ない。
だけど、お前の心は今、複雑に乱れて傷付いてるんだろ…?
俺が、傷付けた。
──俺が。
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