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立ち止まっていた恭介が、歩き出した。
慌てて俺も着いて行く。
グズッと、鼻をすする音が聞こえた。
後ろを歩く俺を、恭介は振り返った。
「雅樹、…これからも友達で居てくれんでしょ?」
そう言った恭介は、ニカッと笑った。
いつもとは、違う笑顔だった。
「お前がいいなら」…なんて言いそうになった。
だけど、そんな遠慮した言葉は、もっと恭介を傷付けるだけだ。
これ以上、傷付けたくはない。
恭介が欲しいのは、多分そんな言葉じゃない。
「あったり前だろ!?なんの為に大学も同じにしたと思ってんだ!」
極力、いつもと同じようになるよう努めた。
普通どおり、普通どおり、と自分に言い聞かせて。
「演劇の方に行きたいつったのは雅樹だろー?言った本人の方が、受かるか分かんねーとか言われるし」
…ほら。
恭介も、いつも通りだ。
いつものように、笑ってる。
「ははは。まぁね。とりあえず受かったからいいべ?」
恭介はなにも答えず、その代わり、穏やかに笑みを浮かべた。
…ごめんな。
直接言ったら、また傷付けるかもしれないから、心の中で言うよ。
ごめんな。
これから、何度も何度も傷付けることがあるかもしれない。
だから、今のうちに謝っておく。
ごめんな。
その代わり、これからはなんの遠慮もせずに、お前と接するわ。
ごめん。
それが、頭の悪い俺が、一生懸命考えて出した答え。
もう、謝らない。
-親友- 終
→あとがき
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