合鍵

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不変のモノなんて無いんだよ。   永遠を信じない貴方が、そんな事を言ったのは何時だったか。           【合鍵】          「もうやめる」   「……何を」   見もしないテレビからは、名前も知らない芸人のつまらないコントが流れていて。 それでも消せないのは沈黙が怖かったからだ。   「無理だろ。もう」   「だから、何が」   本当は知ってる。 彼が何を言いたいかなんて。 けれど臆病な俺は、無駄にパソコンをいじった。   背中越しの彼の声。 元々低いのに、今日は一際低く感じるのは何故だろう。     「わかってるだろ?お前も」   「……………」   そうだね。わかってるよ。 あんたの言いたい事くらい。 何年一緒にいると思ってんの。     「離れよ」   「……そうだね」   振り向かずに、そう言った。 否、振り向けなかった。 背後で微かに息を飲む音が聞こえる。 馬鹿だね。あんた。 俺が嫌だと、言うと思ったの? そんな惨めで女々しい真似、俺がするとでも思う?     「じゃあ、俺帰るわ」   「うん」   「また、明日な」   「うん」   ギシッとソファーの軋む音がして、空気が揺れる。 それでも俺は振り向けない。   玄関のドアが開いて、また閉まる。 そして続く静寂。   「…………終わり、か」   彼が居なくなった事を確認して、漸くパソコンから目を離せた。 呆気無い終わり。 元からわかってた、未来の見えない関係。 不毛で、どうしようもない恋。     「なんか……広い」   部屋を見渡して、そう思った。 図体のデかいあの人がいると、この部屋は不自然な程狭く感じたから。 俺より幾分背の高いあの人をここで押し倒して、何度も繋がった。   そこに今、俺一人。     「あ、れ………」   テーブルの上に、小さな何かを見つけた。    
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