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キーホルダーも何も付いてない、それはただの鍵。
この部屋の…俺の部屋の合鍵。
「案外律儀だよな……あの人」
渇いた笑いが出てきて、けれど頬が濡れた。
「なん……だよ」
掌に余る小さな鍵を握り締めたら、急に視界がぼやけて、気付いたら座り込んで泣いてた。
「なんで思い出すん、だよ………っ」
一緒に過ごした日々。
貴方の体温。
香り。
ふとした仕草。
俺だけの前で見せる、笑顔。
「離れたく…………ない………っ」
今更呟いたって、遅いのに。
言わなかったのは、どうしようもない俺のプライド。
離れないで。
離れて行かないで。
俺の側に居て。
そんな簡単な言葉すら、固い俺の口からは出てこない。
本当にいいの?
何も言わないで、このまま終わっていいの?
誰かが頭の中で囁くから、最後なら一度だけ惨めになっても良いんじゃないかと思った。
「……まだ、近くにいるよな」
掌の小さな鍵を握り締めて、玄関に向かった。
本当に素直じゃないよね。俺。
あんたも負けないくらい素直じゃなかったけど、最後くらい素直にならせてよ。
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