122人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
中世ヨーロッパ貴族の屋敷を想像させる豪華な、しかしどこか寂れた廊下を、髪の毛の所々に白髪が見えているがまだ全体としては若々しい、一人の男性が歩いている。
「……ついにこの時が来てしまったか」
溜め息と共にそんなことを呟きながら、一枚のドアの前で足を止める。彼は少し躊躇する素振りをしたが、すぐにドアをノックした。
少し間があり、どうぞ、と返事。彼が部屋に入ると、そこには一人の少女が窓の外を眺めながら佇んでいた。
「失礼します、お嬢様。少し、お話があるのですが……」
「どうしたの?」
「それが、その……」
「早くして、気になるじゃない」
無邪気な笑顔を浮かべながら、彼女は子供の様に急かす。彼は決意の表情を浮かべる。
「奴らにこちらの居場所を掴まれました」
一瞬その表情を曇らせた彼女だったが、すぐに元の無邪気な笑顔に戻る。
「そう。今回は早かったわね。三ヶ月か……ねぇ、こんどはどこに逃げるの?」
嬉しそうに尋ねる彼女。
「よく聞いてください、お嬢様。最近すぐにこちらの居場所を奴らに突き止められています」
「そうね、確かに最近よく居場所を変えるわね」
「そうです。そしてついに、隠れる場所が無くなってしまいました――」
「そんな……どうするの?」
今まで崩れなかった彼女の表情がここに来て、少し焦りの表情をみせる。
「……一つだけ……方法があります」
少し口籠もりながら、そう彼は話す。
最初のコメントを投稿しよう!