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───俺は、確かに見た。月を背後に暗く聳え立つ摩天楼の一角。そこに、アイツはいた。
流れる栗色の髪は、遥か上空で流れるビル風に揺られて暴れている。赤い瞳は虚空を捉えており、口元も真一文字。表情から窺える感情は何も無い。
俺の通う高校の制服を着た女は、ビルの屋上で何もせずに立ち尽くしている。
突如、女の体がグラつく。風で煽られたのか、上半身を大きく揺らすと、プロペラみたいに腕を広げて、くるくると回る。
そのままの足取りで此方側に背を向け、この摩天楼へと、真っ逆さまに、落ちていく。
落ちていくその女の表情は、どこまでも晴れやかな笑顔だった。
chapter0:moon droper
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