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あくまでも丁寧な口調だけど、そこに【感情】がまるっきりこもっていないアイツの提案は、相手に充分すぎる【絶望】を与えていたに違いない。
「…………。」
その証拠に、言葉を失ったお兄さんは瞳を限界まで広げ、体をガクガクさせて首を横に降り続けているのだから。
でも、それ以上にお兄さんのただならぬ気配を感じた私は、ちょこんと背伸びをしてアイツの肩口からその様子を見て小首を傾げた。
…た、確かにびっくりはしたけど、なんであんなにおびえてるの?
…さっきまでの勢いなら突っかかっていっても良さげなのに…。
そんな私の素朴な疑問に答えてくれたのは、目の前のアイツではなく心の中に直接届く声だった。
〈それは、死神さんの瞳を見たからでしょう。【逃れられない死】を実感したせいだと思います。ああ見えても死神さん、真輝さんが想像してるより遥かにお怒りでしたから。〉
…な、なるほど!でもでも意外ですよね、ユキさん。アイツ、見た目にはいつもと変わらないのに…。
あまりにも自然な会話の流れのせいか、普通に感想を述べてる私だけどさすがに自分の言葉の違和感に気付く。
…はっ!
…ちょ、ちょっと待って私。今、【ユキさん】っていったの??
そう、いるはずのない【ユキさん】の名前を口走った私は急いで周りを確認する。
すると、私達のいる場所から少し離れた公園の入り口付近で、倒れてる(理由は後からわかるんですが…。)男の人の影からもぞもぞと真っ白な子猫が姿を表したのだ。
「ええええええーっ?!」
もちろん、私にしてみれば“いつからいたの?ユキさん”の意味で叫んだのだが、この声が今回のドタバタ劇のクライマックスを告げるベルになってしまったことに、まだ私は気付いていなかった。
あろうことか、この美声(…はい。自分内部では、です。)はユキさんを呼ぶだけではなく、おサルのお兄さんを覚醒させてしまったのだから。
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