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頬に焼け付くような熱波を感じる。これは自分の物ではない。
轟々と哮る(たける)紅蓮の炎は砂塵を巻き上げ、静寂の闇を切り裂いていた。
その中に浮かび上がる人影。それは自分よりも一回りも二回りも小さい。
── やれやれだぜ……
心の中で嘆き、傍らにいる奴を睨み付け問い質す。
「あれはどういう事だ」
バーテン服を纏った彼に怒りを込めてそれを言うと、彼は不適にも笑みをこぼし告げた。
「これは厄介ですね」
まるで他人事のように。
「テメェ…… 俺は聞いてねぇぞ」
自分の力を全て真似されるなんて。
「私も知りませんでしたから」
人に頼んだ割には無責任にも程がある。だが、奴には腹立たしいが言い返せない理由があった。
他愛もない御託を並べていると、炎の中の人影の双眸が不気味に赫々(かっかく)となる。
「きますよ。もう一度聞きますが、わかっていますね?」
目線を幼き獣へと向け、ゆっくりと頷く。それを確認したであろう彼は『頼みましたよ』と一言残すと、微風を感じた。あいつは恐らく、別の次元に避難したのであろう。事が終わったら、何か一つ奢らせてやろうと心に決める。
目標は突如として、自分の剣を二回り大きくしたような大剣を右手に、炎の中から黄砂を這わせ突進してくる。
靡く(なびく)黒髪はボサボサで不清潔さを感じさせる。奴の朱に染まった瞳から理性は無いと読み取れた。
鋭利な歯は牙と見間違えてしまう程で、奴はそれを剥き出し、殺戮の為だけに駆る。奴を突き動かしているのは、防衛本能だけなのかもしれない。こっちはあいつに釘を刺された通り、ヤる事はできねぇんだが。
そして、遠くの目標は、人とは思えないような雄叫びをあげると、突如無機質な動きで滑空、回転。
それは刃を得した歯車。
剣を頭上に構えればいいのだが、懸念される点は一つ、人を超越した動きと遠心力が生み出すその衝撃に、耐える事ができるかどうか。
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