こなゆきの街を歩く

9/11
前へ
/11ページ
次へ
突然だった。ぼくが連絡を受けたとき、きみはどれほどの苦しみの中にいたのだろう。 気が付かなかった。 若かったと言ってしまえば簡単だが、世の中に呑み込まれるのを恐れるあまり、ぼくには、何も見えなかったのかもしれない。   僕が病院の霊安室に入ったとき、ぽつりと置かれたきみの側で、きみの両親はもう泣いていなかった。 いや、泣くことさえ忘れていたのかもしれない。   「この度は…」 ぼくは、言うべき言葉が、それ以上は出ずに、再び泣いた。   きみのとうさんが、ぼくに「飛び降りました。」と言ったきり、あとは沈黙が続いた。 クレゾールと線香の臭いの中で、長い時間だった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加