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僅かに感じる震えた体はその手で拳を作り出す。
「…なら、こんな事言わせんなよ。何も、何も…知らねーくせに…っ」
「知らんくて当たり前やろ。それにな、なまじ知っとったら同情しか生まれんわ」
小柄な少女は耶蘇の腕の中で小さく震え続けていた。
それは耐え難い怒りなのか、解消される事のない苛立ちなのか、それすらも本人が理解していなくとも。
何かを言いたくとも許されないのか、それとも言う事も叶わないと全てを諦めているのだろうか。
それでも、牧師は続けていく。
「そんなんが欲しいんやったら幾らでもくれてやるわ」
新たに加えた煙草は唇の付近だけで味が広がる。
「『可哀相やなぁ』、『大変やなぁ』」
「やめろ!!」
「やめたらへん、ボケが。『会長は強いから平気やろ』『尊敬しますわ』『さすがやな』」
「やめろっつってんだよ!!!」
一つの荒く響く音は、何かが豪快に弾かれる音であった。
叩かれた頬を擦るでもなく、腫れたその右頬は耶蘇に刻印として印されている。
それに掴みかかるのは、珍しくも怒りを堪えきれない晶の叫ぶ姿。
「俺は神サマでも何でもねぇっ、ただの人間なんだよ!!」
叩いた拍子で尻を落とす耶蘇に掴みかかれば、その胸元を力一杯両腕で引き寄せる。
「寂しい時だって辛い時だって、全てを投げ出したくなる時だって――ッッ!!」
唇を噛締めれば、堪えきれず忍耐を曝け出してしまう。
「誰かに側にいて欲しい時だって…っ、愚痴をこぼしたい、時…だって…ッ、ある…んだ…っ」
生まれて初めて溢した不満は、晶にとってただの背徳でしかないとしても。
どんなに強がりで生きていてもそれは事実だった。
そしてその目元に浮かぶ雫を見逃す耶蘇ではない。
「…やっと本音言いよったか、手間取らせよってからに」
右頬の腫れた顔で『ふぅ』、と溜息を溢せば、目の前には目を丸くした晶が一人分からない顔をしていた。
「使命だか与えられた生き方だか何だか知らんけどな、アンタ一人で何でもかんでも背負いすぎや」
「…牧、師…?」
「寂しい時や辛い時は側におったる。愚痴だっていつでも聞いたる。甘えたって我侭言うたってかまへん。せやから、自分の心を切り裂くのはやめぇ」
そこまで言えば、晶にも嵌められたのだと気づいていた。
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