第三話『外より来訪は愛の伝導師』

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少しだけ冷たい風とカラスの鳴き声が、見えない空に舞っている。 晶が去ってどれくらい経ったのか、いや、そんなに経っていないはずだ。 足音はもうとっくに遠ざかったし、彼女の気配すらもう感じない。 「…かなんなぁ」 そんな頃合に、耶蘇は地面で大の字に倒れたまま瞳を開けては若干赤く染まりかけた空を視界に映し出す。 まだ少しの痛みを感じる頬を擦れば、小柄な少女の事を想っていた。 「ヒキョーやで、ホンマ…」 口に加えたままの煙草はそのままに、徐に起き上がってはジャケットの中を探り出す。 内ポケットに一つのものを手に掴めば、気に入らない気配に向かって瞳を変えた。 先程から、いや、実際には晶といる間中ずっと感じていた気配。 晶自身も気づいていたようだったが、彼女にとって『今更』レベルなのだろうか。 「悪いな、ハニー。北斗のやり方、ワイは好かんのや」 姿を見せたのは、少し古い型の拳銃。 ロックを解除して重なり合う金属音を鳴らせれば、トリガーにその指をかけた。 そして鳴るは一発の銃声。 「ぐああぁぁッッ!!」 茂みの向こうからはそんな悲鳴が聞こえてくる。 どうやら命中したようだ。 それをいい事にその体を完全に起こしてゆっくりと近づいていけば、一人の男が茂みの奥でガタガタと震えていた。 黒いサングラスに黒いスーツ。 右肩を抑えているが、その痛みは赤い血液の流れる姿だけで一目瞭然だろう。 耶蘇の放った一発は北斗の男に致命傷を与えるに充分。 だが耶蘇は。 「外からの来訪者が気に食わんのか?」 「ひ…ッッ!!」 抵抗すらできなくなっている北斗の男向かって銃口を向けていたのだ。 相手から聞こえてくるのは、悲鳴と懇願の混じった感嘆詞のみではあったが、耶蘇はその拳銃を収めようとはしない。 「それとも、あの子に近づくから気に食わんのか?」 トリガーにかけられた指に僅かに力が込められていく。 「…なぁ?『北斗』さんよ?」 広大なその空に大きな銃声が4発鳴り響いた。
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