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「キャシャ―――ッッ!!」
蘭のその反応を喜びとする異形の者――魔物はその鋭い爪と牙で、地べたに座り込む蘭に向かって襲い掛かる。
だが。
蘭の体に触れようとしたその瞬間、彼女を覆う何かの光によって魔物はその身を飛ばされていた。
「…、え…?」
荒い息を発しながらも、蘭は分からないこの状況に理解がついていかない。
「よう頑張ったな、ねーちゃん。もう大丈夫や」
聞こえてきたのは、いつの間にか自分の背後にいた男の声。
なまり口調は相変わらず、外から来たと言う牧師の耶蘇だった。
「後はワイらに任しとき」
「元よりそのつもりです…っっ!!」
お役退散、とでも言うかのように蘭は少し荒々しくも厳しい瞳で言い放つ。
「はは、ええ返事や」
耶蘇はというと、首からぶら下げた十字架のペンダントをそのままにいつもの黒づくめな恰好。
唯一違う点はと言えば、蘭は初めて見る彼の『仕事』ぶりだろうか。
手に何かの印を結んでは二人を取り巻く光の壁を作り出す。
先程、魔物が弾かれたのはこの壁のおかげなのだろう。
「ここは地脈が安定しとるさかい、ここならワイにも結界が創り出せる。ロングのねーちゃん、ここまでよう走ったな」
「元々っ、走るのは苦手なんですっ!なんでこう無茶な事ばかり…っ」
そう言っては、思い出される晶の姿。
無茶な要望は今に始まった事じゃない。
始まった事じゃないが、自分が晶の側にいるようになってからというもの『仕事』に同行させられるのがあまり好きではなかった。
それが命に危険のある事だからだ。
当然、蘭のような反応が『普通』なのだろう。
それを確認する耶蘇は明るく笑うが、必死な蘭にとっては堪ったものではない。
「ま、そうカリカリしなや。アンタのおかげで楽に仕事ができるんやさかいに」
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