17人が本棚に入れています
本棚に追加
再びその顔を正面に向ければ、先程の魔物が『結界』によって負傷した傷を庇いながらも立ち上がろうとしている。
「キ…ッ、キシャ…ッ…!」
魔物の言葉か何かは分からないが、威嚇しているのだろう。
再びその結界内の蘭に狩る者の瞳を光らせる。
「ひ…っ!?」
「大丈夫や、この結界はそう簡単には破れへん」
両手に組んだ印をさらに強めれば、結界の光は増していく。
「さぁて、後はハニーの出番やな」
ニヒルな笑みを溢せば、それと同時に魔物は再び結界の光に突進する。
学習能力がないといえばそれまでだが、標的と定めた獲物の蘭しか見えていないのだろう。
「キ、キシャシャーー…ッッ!!?」
「神聖な地脈をつこた結界やっ、それ以上は体に悪いでっ!」
光の壁による力が増せば、魔物は先程よりも大きく弧を描いて弾き飛ばされる。
そしてその瞬間。
「ハニーっ、今やっ!」
無防備に飛ばされる魔物の後ろからは、一つの大きな影が木の陰から姿を現す。
人狼に乗った短髪の女生徒、言わずとも知れた晶である。
「混沌を乗せし剣(つるぎ)よッッ!!!」
恐らく機会を待つ段階で準備していたのだろう、両の掌で赤黒い光を集い、その光を一線上に伸ばしては魔物の体を一瞬で切り裂いた。
「退魔ッッ!!在るべき世界に還りやがれッッ!!」
引力に従うまま、獣と化した犬神が地に足をつけば魔物は断末魔を叫びながらも大地に倒れては命が尽きていた。
赤黒い血液は魔物の証として流れ続けていたが、晶が一枚の札をその体に投げつければその最後の姿さえ何処かに消えていく。
まるでここで何もなかったかのように、柔らかな風と静寂だけが再び呼び戻されていた。
「…任務完了」
その一言で、蘭には待ち侘びた安堵が訪れる。
最初のコメントを投稿しよう!