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地面に座ったまま動けない蘭。
短髪の女生徒に抱きつく耶蘇。
それに耳を尖らせる犬神。
そしてその中心で相変わらずな瞳を見せる晶。
「…あら?」
木の陰からそんな声がすれば、その声の主は未だその場で留まるそんな4人を瞳に映していた。
恐らく晶達の位置からは見えない角度、だがその女性はどこか微笑みながらその光景を瞳に宿す。
「ふふ」
慈愛に満ちた笑みは声になり、その声は隣の男性に聞こえたのか彼は尋ね返していた。
「どうかしたかい?」
「あれ、晶ちゃんよね?」
指差して教えれば、彼も晶達の姿をその瞳に映す。
だが彼はその足を動かす事もせず、その場で彼女と共に留まった。
動いたとすれば、ただなぜるように流れる風で髪が揺れた程度のものだろう。
「相変わらず、か。生きているようで何よりだね」
「あら、会わないの?」
不思議そうに見つめ返す女性は彼の瞳の中にいる。
「止めておこう。どの道、必ず会う事になるよ」
右手に携えた錫杖が鳴れば、その音は風の音色と同化していく。
互いの呉服が揺れ、その中で草が舞ってその顔を隠す。
「巻き込まれるのは遅い方がいいよ。今はまだ、平穏な日々を過ごそうか」
「貴方がそう言うのなら」
女性の美しい長い髪が左右に舞う。
焦点の先にいる晶を振り切るように、二人は背を向けて静かにその場からは姿を消して行った。
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