17人が本棚に入れています
本棚に追加
「前から聞こうと思ってたんですが、牧師さん、それは何ですか?」
何とかその張り詰めたような空気を取り除こうと努力するのは蘭である。
慌てたような仕草はとりたて責める部分ではないだろう。
そんな蘭が疑問を出したのは、いつも牧師が背中に担いでいる大きな十字架の形をしたモノ、とでも喩えればいいのか。人一人は入れそうな棺おけのようにも見える。
見るからに重そうなブツは蘭にとって不思議要素の一つでしかなかった。
「ああ、これかいな。これは懺悔箱とセットで活躍する簡易十字架や。これがないと牧師やて認知してくれへんからな」
ははは、と耶蘇は笑って答えるが、それが本当の答かどうかなど不明だ。
事実、戦闘にそんなモノを持ってくる段階でおかしいのだ。
だが、晶はそれについては何も突き詰めたりはしなかった。
犬神は元より興味もないのだろう。
そして晶は少しだけ後ろを振り向いては訊ね出す。
「…なぁ牧師、『外』には魔物がウジャウジャいるって言ってたよな」
「そりゃもうエゲツナイ事この上ない感じやで」
眉をひそめながら大袈裟なポーズを取るが、晶は低い声帯で再度訊ねた。
「…毎日…、どれぐらいの人間が…死んでるんだ…?」
「……」
暗く沈んだ瞳の色を見せる晶、一方晶のその発言で何かを感じ取る耶蘇。
ヒョウキンな表情から一変する耶蘇の顔は、彼本来が持つものなのだろう。
晶への答を表示しないのは何かを思い出しているからだろうか。
そして一言だけ、耶蘇は伝える。
「――知らん方がエエ。…特に、アンタみたいな子はな」
背に担いだ十字架を担ぎ直し、その重さを確認する。
その重さの意味は耶蘇にだけ意味があるものなのだろう。
それと同時に、晶の求める存在理由は護る事。
だから、聞かせたくなかったのだろう。
「…そうか」
そして晶も、それ以上その内容に関して何も訊ねる事はなかった。
最初のコメントを投稿しよう!