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自分に与えられている使命は『都市を護る事』だけなのだからと、『外』と『内』で切り分けるしかない。
自分でも納得できない部分はあったが、仕方のない事だった。
『外の世界』を知らない、そして自分は魔女の作り出したこの世界(都市)を護る為に命を続けるだけ。
割り切りなんて綺麗なものではなかったが、管轄外には手を出せない。
そんな表情をしてしまっていたのか、耶蘇は晶に近づいてはその漆黒の髪を2~3度軽く撫でた。
「エエ子やな」
見上げた先に見えた柔らかで優しい笑みは『牧師』としての顔だったのか、それとも『耶蘇』個人としての笑みだったのか。
それは定かではなかった。
□ ■ □
生徒が編成される棟とも、生徒会室が組み込まれている棟ともまた離れた場所に、その来賓室はあった。
いくつかの接客用来賓室の一つを借り、耶蘇はそこを拠点として生活をしている。
綺麗なベッド、整った設備。
絨毯も豪勢で天井にはシャンデリアまで設置されている。
西洋な窓を空ければ燦燦とした眩しい朝日が入り込んでくる。
そんな手すりに腰掛、朝の一服を兼ねて戦闘後の一本を味わう。
都合のいい事にか学校側が気を遣ってくれたのか、リッチな立脚灰皿まで整っている。
「…ふぅ」
最初の呼吸と共に紫煙を吐き出せば、落ち着いてくる鼓動を感じた。
窓の外は緑溢れる学園の姿。
平和な世を形成されるこの世界を、『外』と比べても仕方のないことだ。
だが、今自分がここにいる目的を思い出しては喉が詰まる。
「平和やなぁ…」
落ち着く場所を僅かでも確保できるなど、『外』では考えられない事だった。
一歩でも歩こうものなら気配を隠す事に余念がない日常。
自分以外の気配を探っては戦闘ばかり繰り返していた、牧師としての務め。
十字架を背負って護る事が、自分の仕事だった。
―――そして、恐らく今も―――
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