第1章 狙われた男

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「たいへん長らくお待たせしました」  尚久さんが大きな額を持って現れた。 「よっ、待ってました」  パチ パチ パチ  額の登場に拍手喝采が沸き起こった。 「これが俺の作品です」  尚久さんが額を表にひっくり返した。  そこには、日の光を浴びて気高く咲く一輪の花が写っていた。 「へえ、見事な物だな」 「素晴らしいわ」 「一体どこで撮ったんですか?」 「それは、とっておきの場所なんで内緒です」 「ところで、これは何の花だ?」  須賀さんが首を傾げながら質問した。 「須賀係長、知らないんですか?」 「どこかで見たことはあるんだが」 「これは菫ですよ」 「でもどうして菫なんか?」 「ちょっとした思い入れがあってね」  そう語る尚久さんの表情は、どこか切なそうに見える。
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