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“疾風の織姫(しっぷうのおりひめ)”
それが彼女の二つ名。
顔は綺麗で髪は桃色でショート。丈長(たけなが)の青いワンピースに白いエプロンという、どこぞの小説にいるあの人に似ているが、別人である。
“疾風の織姫”の名はビルティーナ。
彼女はこの〝地球とは違う世界〟でも数少ない魔法使い。
「あ、甘すぎるわね」
彼女は小さな村の、日本でいう喫茶店でショートケーキを食べていた。
「あ、甘すぎて吐きそう……」
彼女は口を手で押さえながら立ち上がり、洗面所へ向かった。
「嬢ちゃん。無理して食べることはないぞ」
と店主。
「食べ残しは嫌なの。うえぇ」
せっかくの美女が台無しである。
「嬢ちゃんは本当にあの“疾風の織姫”なのかい?」
「え、えぇ」
彼女はやっと洗面所についた。
席からずいぶん遠く感じられたな、とビルティーナは思う。
“疾風の織姫”である彼女・ビルティーナは結構その名が知れ渡っている。
美女。俊敏な魔女。萌え。などなど、と。
ビルティーナが洗面所で美女を台無しにしている頃、同じ店に一人の青年が入ってきた。
「へいらっしゃ」
店主の言葉は最後まで続かなかった。否、続けられなかった。
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