~一年目~

6/41
前へ
/41ページ
次へ
そこには異様な光景が広がっていた。 誰も外を出歩いていない。小さな村とはいえ、それはありえないことなのだ。 「まさか……」 いや……、とビルティーナは考え直す。 そんなこと、あるはずがない。自分は“疾風の織姫”なのだ。人の気配を感じとれるし、血の臭いだってわかるのだ。 〝もしも“無音の響き手”がそれこそ『無音』で村の人々を殺していったのだとしたら?“疾風の織姫”である自分に気付かれずに〟。 「くく……」 後ろから笑い声が聞こえ、ビルティーナは今いた店の隣にある建物の屋根の上に跳んだ。 「やっぱり……」 屋根の上から村を眺めてみても、やはり誰も歩いていない。 「「甘い」」 声が重なった。 ショートケーキを一口(ひとくち)口に運んだビルティーナの声と、そのビルティーナの後ろから剣を縦に振り下ろした“無音の響き手”コルツフートの声が。 コルツフートが振った剣により、ビルティーナが立っていた屋根に大穴があいた。 「さすがは“疾風の織姫”。逃げ足は早い」 ビルティーナはコルツフートの後ろに回っていた。食べかけのショートケーキは持っていない。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加