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そこには異様な光景が広がっていた。
誰も外を出歩いていない。小さな村とはいえ、それはありえないことなのだ。
「まさか……」
いや……、とビルティーナは考え直す。
そんなこと、あるはずがない。自分は“疾風の織姫”なのだ。人の気配を感じとれるし、血の臭いだってわかるのだ。
〝もしも“無音の響き手”がそれこそ『無音』で村の人々を殺していったのだとしたら?“疾風の織姫”である自分に気付かれずに〟。
「くく……」
後ろから笑い声が聞こえ、ビルティーナは今いた店の隣にある建物の屋根の上に跳んだ。
「やっぱり……」
屋根の上から村を眺めてみても、やはり誰も歩いていない。
「「甘い」」
声が重なった。
ショートケーキを一口(ひとくち)口に運んだビルティーナの声と、そのビルティーナの後ろから剣を縦に振り下ろした“無音の響き手”コルツフートの声が。
コルツフートが振った剣により、ビルティーナが立っていた屋根に大穴があいた。
「さすがは“疾風の織姫”。逃げ足は早い」
ビルティーナはコルツフートの後ろに回っていた。食べかけのショートケーキは持っていない。
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