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だが逃げるわけにはいかない。
ビルティーナは両手を前に出し、何もないところで、何かを織り始めた。
「私は……“疾風の織姫”」
そう。逃げるなんて考えてはいけない。相手は片目が見えない。これは好機。
ビルティーナは、コルツフートの右目を潰してくれた誰かに、心から感謝した。
そのコルツフートは、まだ右目を押さえ荒い息をついていた。
「やっぱり、君じゃなくて、“指令の館(しれいのやかた)”や“朱雀(すざく)”から狩るべきだったかな……」
コルツフートは呟くように言った。
やがてビルティーナの手には、緑色の球体が存在していた。大きさは野球ボールのそれと同じだ。
「僕を殺す前に、一つ」
ビルティーナは迷った末、遺言を聞くことにし、頷いた。
「後ろ」
「えっ?」
振り向いたが何もない。しまった!とビルティーナは後悔し、前を向き直ると、コルツフートの姿がなかった。
気配を探る。
「はっ!」
ビルティーナは緑色のそれを持って屋根から跳び下りた。直後、大きな音をたてて屋根が下から上へと吹っ飛び、天井がぽっかりと開いた建物からコルツフートが姿を現した。
目こそ押さえてないが、治っているわけではない。
「外したか。“疾風の織姫”」
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