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「凛君、看板を出してくれますか?」 「はい、」  凛と呼ばれた未だ幼さの残る少年は頷くと、身軽な身体を動かし言われた通りに置いてあった看板を建物の外に立てかける。  看板には華美ではない程度の彩りで「開店」と文字があしらってある。  少年が戻ると、今し方指示した彼――十六夜は穏やかに微笑んで労いの言葉をかけた。彼は全体的に優しい印象を与え、レンズ越しに覗く瞳はチャコールグレー、整った黒髪が適度に顔に掛かり暗の彩色を思わせる。そして凛という少年は彼の手伝いとして此処に居る。  それが、彼等の日常であり、永劫の常なのである。  不意に十六夜は凛が入ってきたこの建物の入り口に視線を向ける。するとまだ誰もその戸を動かしてはいないのに、カラン、と戸に付けられている飾りが鳴った。十六夜は小さく口元を上げると、再び穏やかな笑顔を凛に向けた。 「――さあ、お客様がお見えになりますよ」  糸紡ぐ時の回廊、始まりの鐘。
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