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今の玲旺には聖世の命を危険にさらしてまで、やらなければいけないことなんて存在するとは思えなかった。
今度こそメドゥーサを誰の手にも殺させない。
愛する女を守るために人間に生まれ変わった。
苦悩する玲旺をよそに隼人が教室の入り口付近で戸惑ったようにウロウロしているのを見つける。
また聖世に付きまといに来たのか?
そう思うと自然に溜め息が洩れた。
しかし、今日は違うらしい。
玲旺と目が合うとホッとしたような表情を見せ、手招きした。
どうやらこっちに来い、という意味らしいと察した玲旺は椅子から立ち上がって隼人の方へ歩いていく。
「何?聖世はいないよ」
「違うよ!沢村を探してるんだけど、いないんだよ」
「沢村?国研にいるんじゃないのか?」
「いなかった」
「いない?」
それはおかしい、と玲旺は首を傾げた。
確か次の時間は二年生の授業があるはずだ。
「水谷さ、神無月さんは具合が悪いから早退したって沢村に言っておいてくれる?」
アイツ、三組の担任だもんな、と続けた隼人の言葉に玲旺の眉が吊り上がった。
「聖世が具合悪いって?」
そんな様子は微塵も見られなかった。
確かに。最近の玲旺は腑抜けになっていたが、聖世の様子はちゃんと見ているつもりだ。
聖世は、あれでいて真面目な性格だ。
わけもなくサボるような真似はしないだろう。
特に今は沢村に怪しまれてはいけないと思っている。
その聖世がサボり?
動き出したな、と玲旺は悟った。
聖世は何かを掴んだのだ。
それで動き出した。
隼人を見ると、沢村を探して走り回っていたのだろう。
疲労の色が見える。隼人に伝言を頼んだ聖世。
要するに、聖世がサボる直前まで隼人と一緒にいた、という事だろうか?
「おい、伊東」
「なんだよ」
「聖世は本当に具合悪くて帰ったのか?本当はサボりだろう?」
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