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強引に連れて来られた先は、生徒会室。
『…あの…?』
「これ、生徒会長から…着て。」
そう言って渡されたのは、この学園の高等部の制服。
「早く。まだ他にやることあるから。」
生徒会室の角にある、カーテンで仕切られた更衣室を指差されて、渋々そこで着替えることにした。
『なんであの人、俺の名前知ってんだ?』
小さな疑問を抱きながら着替えていると、二つのネクタイを見て不思議に思った。
「白いのが正装用だから。今日はそっちつけて。」
俺の考えを読むかの様に放たれたその言葉に苦笑を浮かべ、白地のネクタイを締めた。
着替え終わって更衣室から出た後、俺を此所へ連れて来た人がこちらを見て自己紹介をし始めた。
「俺は…生徒会副会長の、灰原七瀬。嫌いなことは、会長に負担がかかること。以上。」
それだけ告げられると、また腕を掴まれた。
『えっ…な、何?』
「始業式、始まるから。」
またもや強引に会場へと連れて行かれた
*
始業式での紹介が終わって、一息つく。
次は生徒会長の演説らしい。
副会長に後ろの席に座る様に指示され、席についた。
「皆さん、春休みを有意義に過ごすことは出来ましたか?」
『あの人が会長なんだ…』
遠くから見ても解る、金地に茶色いメッシュの入ったハッキリとした色調の髪色。
長さは少し長めのショートで、制服もキッチリと着ているのでとても清潔感がある。
顔は綺麗に整っていて、いわゆる美人顔だ。立ち方も表情も凛々しくて、男の俺でも見とれてしまうくらいだ。
俺は生徒会長の演説を聞きながらも、その容姿にただ見とれていた。
生徒会長の演説は完璧で、聞いていても全然飽きない。むしろ楽しいくらいだ。
会長さんて…演説凄く上手いんだなぁ…
迷いの無い瞳に、自信に満ち溢れた堂々とした態度。俺はソレに圧倒されていた。
俺…生徒会の手伝いどころか、足手纏いになるんじゃ…!?
不安が脳裏を過ぎって離れない。
完璧過ぎる生徒会長を目にしてか、それとも不安からか…俺は冷や汗を流して自分の世界へと入っていた。
物思いに耽るとは、まさにこの事だろう。俺は式が終わるまで、ずっと椅子に座ったまま固まっていた。
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