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「どんなって…普通?あと、悠李でいい。」
そのまま悠李は歩き出して、俺は引っ張られるがままについて行く。
校内の桜並木に差し掛かった所で、不意に話を振られた。
「なぁ、お前の前の学校って、どんな所?」
*
俺がその話を振った途端、咲麻の顔色が変わった。
『別に…普通の一般人が通う、公立の学校だよ?と、友達だって…普通の友達だしさ。』
明らかに動揺の色を見せる咲麻。その様子からして、前の学校では上手くいっていなかったようだ。
恐らく、あの日カフェで見掛けた咲麻に対して心の引っ掛かりを感じたのは、その学校生活から感じる寂しさだったのだろう。
顔色一つで相手のことを理解するなんて、俺も会長にかなりの影響を受けたものだ。
もっと知りたい。そんな欲求が募る一方、まだ聞ける様な立場でも無いという考えが過ぎった。
俺達はまだ、出会ったばかり。そんなヤツがいきなり根掘り葉掘り聞いてもいいのだろうか?
普通なら嫌がって、場合によっては距離を置いてしまうだろう。警戒することも間違いない。
そんなことになってしまっては困るのだ。
「…そうか、そういえばお前、バイト続けるんだってな?どうしてだ?」
出来るだけ優しく、退かれ無い様な質問を投げ掛けた。
『やっぱり、全額負担してもらうなんて悪いし、少しでも払いたいからさ…貧乏癖あるから、お金のことはどうしても考えちゃって。』
苦笑しながらもゆっくりと動く咲麻の唇。
どうやら会長は「全額負担する」と言って引き抜いてくれたらしい。
「あまり無理はするなよ?生徒会の仕事も、解らないこととか俺が教えてやるから。…あ、ここだ。」
『うん、ありが……うわぁっ、おっきな寮だな…!!』
興奮状態な咲麻と、ようやく咲麻の暗い表情が消えたのを見て口元に笑みを浮かべる俺。
刻々と過ぎ行く時間の中で、俺達二人はスローモーションが掛けられた様に、ゆっくりと寮内へ吸い込まれて行った。
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